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【おおいた起業家事情】命を守り、地域産業の足元を固める挑戦

2026.03.09

髙瀬水産有限会社 取締役 髙瀬温大(はると)氏

 

 2026年1月6日、大分県佐伯市蒲江の美しいリアス式海岸沿いに車を走らせて訪れたのは、創業50年を迎える「髙瀬水産有限会社」。出迎えてくれたのは、昨年5月に福岡での銀行員生活を経て家業に戻ったばかりの3代目後継者、髙瀬温大さんです。

 案内された木造の養殖場には、巨大な水槽が整然と並んでいました。中をのぞくと、出荷を控えたトラフグや、大分の新たなブランド魚として注目される「さいき桜サーモン」が力強く泳いでいます。しかし、髙瀬さんの表情は真剣そのものでした。「養殖業者は、夜も眠れない不安と戦っているんです」。

 彼が直面したのは、近年の海水温上昇による「酸欠」のリスクです。手塩にかけて育てた魚が、酸素不足で一晩にして全滅する――そんな悪夢のような「大量斃死(へいし)」が、現実に起こり得るといいます。「1匹高く売るブランディングよりも、まずは1匹も殺さないインフラ整備が先決だ」。元銀行員らしく、経営の持続可能性をシビアに見つめる髙瀬さんの言葉には、強烈な説得力がありました。

 そこで彼が新規事業として掲げたのが、「次世代型溶存酸素自動制御装置」の開発です。職人の勘に頼っていた酸素管理を、センサーと自動バルブで制御し、魚の命を守り抜くシステム。これは単なる効率化ではなく、地域産業の信用を守るための挑戦でした。

 そして迎えた1月13日。「第6回アトツギ甲子園」九州・沖縄ブロック大会。アクロス福岡のステージに立った髙瀬さんは、「命を守り、家業、産業を繋ぐ」と題し、4分間の熱いピッチを行いました。「魚が死ぬことは、経営における巨大な損失であり、金融機関からの信用失墜にもつながる」。銀行員時代の経験と、現場で魚と向き合う生産者としての視点を融合させたプレゼンテーションは、会場の空気を変えるほどの迫力でした。

 結果として、今回は惜しくも決勝大会への切符を掴むことはできませんでした。審査員からも「非常にレベルが高く、議論が紛糾した」との声が上がるほどの激戦でした。しかし、ピッチを終えた髙瀬さんの目には、悔しさの中にも確かな決意が宿っていました。「結果はどうあれ、この課題は解決しなければならない。蒲江で養殖を続けていくために」。

 「アトツギ甲子園」への挑戦は、ゴールではなくスタートに過ぎません。既存の「掛け流し式」養殖(海水を汲み上げ陸上の水槽で魚を育成する方式)に対応したこのシステムが完成すれば、佐伯市だけでなく、日本の水産業界全体を支える技術となるはずです。

 「派手さはないが、足元を固める保守の革新」。そう語っていた髙瀬さん。地域と共に生き、命と向き合う若きアトツギの挑戦を、おおいたスタートアップセンターはこれからも全力で応援していきます。

※本記事は『創造おおいた』2026年3月号の「おおいた起業家事情」のページに掲載されています。

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